相続放棄の注意点!
コラム
2024年3月17日 日曜日
今回は「相続放棄」について解説したいと思います。
当事務所で最近多い質問の中に「相続放棄」があります。
相続が発生した場合で「相続人で話し合いを行い、長女は嫁いでいるので相続放棄をさせ、長男が全ての財産を相続した。」という話はよくあります。
ここでいう「相続放棄」は民法でいう正式な相続放棄ではありません。ただ単に相続人が遺産分割協議を行い全ての財産を長男が相続したにすぎません。
では民法で言う「相続放棄」とはいったいどういったものなのでしょうか。
【相続放棄】
相続開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります。(民法915条)
家庭裁判所に相続放棄が認められた場合には、その相続について初めから相続人でなかったものとみなされます。(民法939条)
結構手間がかかりますね。
では一体どういった場合に「相続放棄」の手続きを行うのでしょうか。
代表的な場合は以下のケースです。
1 相続するプラス財産(現金預貯金、有価証券、不動産など)よりマイナスの財産(要するに借金などの債務)が多い場合。
2 亡くなった方と第一順の相続人との関係性が希薄である場合。
3 次の相続(二次相続)を考えた場合。
《解説》
1のケース
相続してしまうとその時点で負の財産を背負い込むことになるためです。
相続税の申告が必要な場合とは、プラスの財産からマイナスの財産を差し引き、その金額が相続税の基礎控除を上回る場合です。
当事務所のお客様は基本的に相続税の申告が必要な方になりますので1のケースの場合私が関与することはございません。
2のケース
相続といえば、「父が亡くなり、その財産を母と子が相続する。」と思うかもしれません。
しかし実際の相続にはいろいろなケースがあります。
例えば亡くなった方の相続人の内全然面識のない方(父の先妻の子(半血兄弟))などが存在するケースです。
3のケース
独身の子が先に亡くなった場合です。
最近では生活スタイルの変化により独身のまま一生を過ごすという方も珍しくありません。
亡くなった方に配偶者や子供がいない場合、第一順位の相続人は亡くなった方の親になります。
親御さんの年齢やその時の状況にもよりますが、次の相続を考えてあえて親の相続権をなくすというケースです。
【相続放棄の影響】
では相続放棄を行った場合相続税にどのような影響があるのかを解説します。
《相続税の基礎控除》
相続税の基礎控除の計算方法は
3,000万+600万×(法定相続人の数)です。
相続放棄を行った場合、その者は最初から相続人でないとみなします。
例えば、父が亡くなり相続人が母、子A、子Bの3人であった場合、法定相続人は3人ですので相続税の基礎控除は
3,000万+600万×3人=4,800万となります。
ここで子Bが相続放棄を行ったとしても基礎控除は4,800万のままとなります。
相続放棄による相続税の基礎控除への影響はありません。
《相続税の総額》
相続税の計算は亡くなった方の財産から債務と基礎控除を差し引き、残った金額に税率を掛けて税金を計算する仕組みになっています。
例えば上記の例でいう父の財産(債務控除後)が1億円だった場合、
1億-4,800万(基礎控除)=5,200万
いったん母、子A、子Bが民法の相続分で取得したと仮定して「相続税の総額」を計算します。
母の相続分に対応する税額
5,200万×1/2=2,600万
2,600万×15%-50万=340万
子A、Bの相続分に対応する税額
5,200万×1/4=1,300万
1,300万×15%-50万=145万
「相続税の総額」
340万+145万+145万=630万となります。
では子Bが「相続放棄」を行った場合の「相続税の総額」どうなるのでしょうか。
答は630万です。
上記の場合「相続放棄」が行われた後の相続人は、配偶者と子が存在しますので相続人は母と子Aの二人になります。
ただし「相続放棄」があったとしても「相続税の総額」を計算する場合には影響はありません。
では「相続放棄」を行った場合どこに影響を及ぼすのでしょうか。
代表的なものは下記のとおりです。
《生命保険金の非課税》
相続税の場合、亡くなった方が保険料を支払い、被保険者が亡くなった方で、死亡保険金が支払われた場合、500万×法定相続人の数=非課税金額となっています。
上記の場合で言うと
500万×3人=1,500万が生命保険金の非課税金額となります。
相続放棄をした人が保険金の受取人であった場合
「相続放棄」を行ったとしても保険契約で受取人となっている場合は、死亡保険金を受け取るようになります。
但し「相続放棄」を行った人が死亡保険金を受け取った場合は生命保険の非課税の適用はありません。
例えば上記の場合死亡保険金が2,000万だった場合
受取人が母の場合
2,000万-1,500万=500万が相続税の課税の対象になります。
受取人が子B(相続放棄者)だった場合
2,000万が相続税の課税の対象になります。
《債務控除》
「相続放棄」を行った人が亡くなった人の債務を支払しても相続税の計算上控除することはできません。
但し葬式費用を支払った場合は控除することができます。
《相次相続控除》
1回目の相続から2回目の相続までの期間が10年以内の場合は「相次相続控除」という相続税の減額の制度があります。
同じ財産に短期間で二度相続税が課税になる税負担を軽減するための制度です。
「相続放棄」を行った場合はこの制度を利用することはできません。
この制度は「被相続人の相続人」に限られるからです。
「相続放棄」を行った人は初めから相続人でなかったとされます。
前述のとおり生命保険金の受け取りは「相続放棄」を行った場合でも可能です。
生命保険金を受け取ることにより財産を遺贈された扱いになり相続税の納付義務が発生する場合がありますが「相次相続控除」の制度は使えません。
また、この取扱いは2回目の相続の相続人に限ったわけではなく、1回目の相続で「相続放棄」をしていた方が生命保険金を受け取ったため相続税の納付が発生したとしても、2回目の相続の相続人に「相次相続控除」はありません。
《他の相続人への影響》
「相続放棄」を行った場合、同順位の相続人が存在しない場合は次順位の方が相続人になります。
例えば、独身の子が先に亡くなった場合第一順位の相続人は親になりますが、その親が「相続放棄」の手続を行うと次順位は兄弟姉妹になります。
兄弟姉妹が相続により財産を取得した場合は親が相続した場合と異なり相続税を20%多く納付する(相続税の2割加算の制度)必要が生じます。
相続放棄を行った場合、一般的な相続に比べて取扱いが異なることが多々あります。
それは納付税額の増加に関するものがほとんどです。
特に生命保険金の取扱いは金額も大きく受取人を事前に変更することにより容易に納付税額の増額を回避できる場合もあります。
相続税対策の基本は《現状把握》です。
相続が発生してしまってからではどうすることもできません。
相続税対策に興味がある方は是非一度お気軽にご相談ください。
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