相続税調査における家族名義預金の税務判断

コラム

2021年12月8日 水曜日

前回(R3.12.1公開)は税務調査で度々問題となる家族名義預金の概要について説明しましたが、今回はさらに家族名義預金の税務上の判断について掘り下げてみたいと思います。

 

前回ご説明したとおり、相続税の税務調査では家族名義預金・名義株式などがよく申告漏れとなっています。

 

なぜ申告漏れになるのか?

 

それは家族名義預金に対する、税務署側と納税者側との認識のずれにあります。

 

《税務署側の主張》

預金の名義は相続人である長男の名前になっているが、それはあくまで名義だけのことであり、実質的には被相続人(亡くなった方)である父親の財産である。

 

《納税者側の主張》

名義が長男の名前になっているので父親の財産ではない。相続財産に計上する必要はない。

 

というようなお互いの主張があります。

 

結局争点となるのは、いったいこの預金は誰の財産なのかというところです。

 

被相続人の財産・・・相続財産に計上する必要がある

名義人の財産・・・・相続財産に計上する必要はない

 

 

【相続税法では】

「相続又は遺贈により取得した財産の全部対し、相続税を課する」としか記載されておらず具体的な判断は過去の裁判例などから紐解いていくしかありません。

 

【名義預金の判断基準】

過去の裁判例から以下のような基準を基に名義預金の判断が行われています。

 

・その財産の原資を捻出したのは誰か

・その財産の管理・運用を行っていたのは誰か

・その財産から発生する利益は誰が受けていたか

・過去に贈与の事実があったのか

・相続税調査の場合は被相続人と名義人との関係は何か

 

これらの判断基準に基づいて「この名義預金はいったい誰の財産なのか。課税関係は正しいのか。」を税務調査で判断していきます。

 

上記の判断基準の中で特に問題となりやすいのが、「過去に贈与の事実があったのか」というところです。

 

《民法では》

贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与える意思を表示し、相手方が受託することによって、その効力を生ずる。(法549条)

 

贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する。(法551条)

 

となっています。

 

つまり贈与者が子の財産を相手方に「あげます」という意思表示をし、相手方が「もらいます」という意思表示(双務契約という)をする。そして実際に対象物が相手方に移転したことをもって贈与が成立するということです。

 

しかし実際の相続税調査では、この「贈与契約があったのか」「対象物の移転があったのか」の判断が税務署側と納税者側との争点になるわけです。

 

贈与があった・・・相続財産には計上する必要はない

贈与はなかった・・相続財産に計上する必要がある

 

次回は具体的な財産移転の判断要素について説明していきます。

カテゴリー: