相続税申告における配偶者居住権について【概要】

コラム

2020年5月18日 月曜日

2018年の民法(相続法)の改正により、2020年4月1日から配偶者の居住の権利を保護するための「配偶者居住権」が施行されました。

民法1028条
配偶者は、相続開始の時に居住していた被相続人所有の建物を対象として、遺産分割、遺贈又は死因贈与によって、その居住建物の全部について、建物所有者に対し、原則として配偶者の終身の間、無償で使用収益できることを内容とする権利である。

 

配偶者居住権とは?

配偶者居住権とはいったいどんな権利なのでしょうか。

ずばり、「相続が発生する前から住んでいた配偶者の自宅は、配偶者がその自宅の所有権を相続しなかったとしても、ずっと住み続けてもいいですよ。」という権利です。

例えば

4,000万円の自宅と4,000万円の預金を持っていた夫が亡くなった場合で、相続人が妻と長女の二人だったとします。

これまでの民法による相続分では、法定相続分は妻も長女も1/2ずつですので、夫の財産の総額8,000万円×1/2=4,000万円ずつがそれぞれの相続権になります。

 

しかしこの場合だと、妻が夫と一緒に住んでいた自宅を相続すれば相続分の4,000万円を取得したことになり、預金を相続できないことになります。今後の生活が成り立たなくなってしまう可能性もあります。

妻と長女が仲がいい場合はさほど問題にはなりませんが、お互いの仲が悪く権利意識が強い場合は十分あり得る話です。

 

こういった場合に「配偶者にその自宅に住む権利だけを認めましょう」という権利が配偶者居住権です。

 

具体的には

自宅の権利を「住む権利(配偶者居住権)」「所有権」に分けて、配偶者、その他の相続人が別々にそれぞれの権利を相続することができる制度です。

 

仮に配偶者居住権が2,000万円だった場合、上記の例に当てはめると

妻の相続分・・・配偶者居住権2,000万円+預金2,000万円=4,000万円
長女の相続分・・自宅の所有権2,000万円+預金2,000万円=4,000万円
となります。

妻は自宅の所有権を相続することなく住み続ける権利を相続し、かつ、今後の生活資金も相続できるというわけです。

高齢化社会に伴う家族の生活形態及び家族観の変化の中で、生存配偶者に住み慣れた居住環境での生活を継続することができる居住権を確保しつつ、その後の生活資金としてそれ以外の財産についても一定程度を確保することができることを考慮し、この制度が設けられました。

相続人間に特に争いもなければ遺産分割もさほど問題はありませんが、親子間の仲が悪かったり、あるいは、被相続人の先妻の子との相続争いなどを想定した法改正と思われます。

 

要件は?

1. 配偶者が相続開始の時に被相続人所有の建物に居住していたこと
・婚姻上の配偶者であること(内縁関係・パートナーは含まれない)。
・被相続人が生前、第三者(配偶者以外)と共有していた建物は対象とならない。
・「居住していた」とは、配偶者がその建物を生活の本拠としていた場合である。そのため相続開始前に老人ホーム等に入所していた場合には一時的な入所である場合以外は「居住していた」とは認められない。

2. その建物について配偶者に配偶者居住権を取得させる旨の遺産分割、遺贈又は死因贈与がされていること
・発生原因となる法律行為は、遺産分割、遺贈又は死因贈与に限定される。
・配偶者が被相続人の建物に居住していただけでは配偶者居住権は認められない。(つまり権利を主張し遺産分割の対象としなければ今まで通り課税関係はない。)

 

効力は?

・配偶者居住権は、存続期間中、居住建物を無償で使用・収益することができる。
・配偶者居住権は、譲渡することができない。
・配偶者居住権は、配偶者の終身の間存続する。
・配偶者居住権は、配偶者が死亡した場合には消滅する。また、相続の対象にならない。
・配偶者居住権は、登記をすることができる。

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